
イタリアンアルプスを舞台に、狼たちが戻ってきた山あいの村で、人生を取り戻していく男の姿を描いた長篇小説。表紙の中央には、油彩で描かれたとおぼしき雪を頂く山塊が静かに据えられ、青みを帯びた灰と白の筆致が、岩肌の硬さと冷気の澄んだ質感を伝える。広くとられた余白の地に、明朝の縦組みで「狼の幸せ」、その脇に細身のラテン文字で原題と著者名が寄り添い、絵画と活字のあいだに山の静けさそのままの間が残されている。荒野に還る生命と、人がそこで取り戻すものの輪郭が、一枚の山の絵に重ねられている。

著渡辺淳子
装丁鈴木久美
装画マメイケダ
光文社 / 2020年
文学・評論